OTO

ニュース/東京事変

東京事変と2020年を生きている

tokyojihen.com

8年越しの東京事変が、「東京事変」としての純度をより一層高めている。

今年の元旦に再生宣言をしてから初のフィジカル作品『ニュース』を聴いた。私が『娯楽(バラエティ)』(2007年)をリアルタイムで聴いてどっぷりハマってから、もう13年が経とうとしているのか。そのあともずっと聴いていたのに、2012年の解散のタイミングは大学のドタバタで少し離れていた時期で、気づいたらあっという間に解散してしまっていた。

今回のEPは、メンバー全員が1曲ずつ作曲した全5曲を収録(作詞は椎名林檎)。解散を表明してすぐに発売され、ベスト盤や映像作品以外では最後の作品となった『color bars』(2012年)も、メンバーそれぞれが作詞曲している5曲入りのミニアルバム。上記の通り、『color bars』については解散後にチラッと聴いていたくらいだったのだけど、「これは『color bars』をちゃんと聴かなきゃいけないやつだな」ということで、あらためて聴いてたらめちゃめちゃ面白かった。

『color bars』リリース当時のインタビュー(SR 猫柳本線)も読んだけれど、制作の流れ的にもとにかくメンバーそれぞれの個性が強く出たというか、あえて強く出した作品だったことがよくわかるミニアルバムで、正直1枚のアルバムとしてのまとまりはあんまりない(笑)。メンバーそれぞれのベストを尽くしたコンピレーションアルバムみたいな。でもそれがものすごい強烈な個性で、「職人集団」「プロ集団」等と呼ばれる東京事変の本性を見るような作品だった。当時、「東京事変」としての変化の過程の中でラストとなる作品だったこともあってだろうけれど、そこには東京事変としての集大成感というよりは、変化の途中、進化の予感、みたいな印象が強くて、決して「東京事変といえばこれ!」という作品にはなっていなかったと思う。だから私も、その後めちゃ聴き込んだりはしなかったのかなと思ったり。もちろん1曲1曲はすごいし、それまでにないくらいメンバーの個性が前面に出ていて新鮮だし楽しいのだけど。

そんな『color bars』から、8年間の解散期間を経てリリースされた新作『ニュース』。これが『color bars』とは対照的にめちゃめちゃ「東京事変」な作品で、それはメンバーそれぞれが一度この集団を離れたからこその純度の高まり方をしているように感じられる。もともと強烈だった5人の個性はそのまま色濃く出しながらも、メンバー各々の「東京事変観」みたいなものが、我々ファンも含めてガチッと一致している感覚。それはきっとこの解散期間に(ファン含め)全員が外の空気に触れ、その中で各々が得てきた新たな技術や価値観を踏まえながら、再生にあたり「東京事変」を俯瞰したからこそできたのだろうと想像するし、もしくはもっとシンプルに、解散という空白期間を経たことで、この5人での制作という行為自体が無自覚的に純度を高めさせたのかもしれないとも思う。いずれにせよ、この5曲を聴いたとき、曲ごとにそれぞれメンバーの顔が浮かんだし、「うわ〜〜東京事変だ〜〜〜〜」と思えたのはファンとしても最高に幸せなことだった。 

その圧倒的東京事変感は、元旦の再生宣言とともに発表された「選ばれざる国民」からすでに感じていたことだったんだけれども、後日この曲は「某都民」(アルバム『娯楽』収録)の続きであることを聞いて納得した。

これは完全に個人的な話になるが、私が初めて聴いた事変のアルバムが『娯楽』だったこともあってか、(もちろんどのアルバムも超かっこいいんだけど)私にとって事変といえば『娯楽』で、そしてその中でも当時「某都民」を聴いたときの衝撃を今でも鮮明に覚えている。「OSCA」や「キラーチューン」が収録されているアルバムだし、当然全曲めちゃめちゃかっこいい。「黒猫道」とかも大好きだし、本当に全曲好きなアルバムなのだけど、「某都民」だけは、好きという感情以外の衝撃を食らっていたことは忘れられない。

曲全体が醸し出す妖しさと、椎名林檎以外に2人の男性の声が聞こえてきて、しかも当時中学生だった私には聴いたこともない大人の男性の声で2人とも超かっこよかったし、それが歌詞とあいまってものすごい色気を放っている…。そして「某都民」というタイトルの匿名的な響きがまたリアルというか、「これが東京か…!」と田舎でこれを聴いていた私の衝撃たるや。この曲を聴いて「東京」を感じていたのは地方出身である私特有のことかもしれないけど、でも東京事変の外せない要素のひとつとして、浮雲伊澤一葉の歌声というのはマジであると思ってる。あくまでコーラス的に歌っているような歌い方が特徴的に聴こえるのかもしれないけど、でも2人ともめちゃめちゃ独特な声だし、こんな歌声、未だに他で聴いたことがない。

という「某都民」の続きが今回の「選ばれざる国民」だそうで、どちらも浮雲作曲、椎名林檎作詞。「続き」というのは林檎さんの言葉なので、もしかすると作詞の面でのことなのかもしれないけど、「選ばれざる国民」も浮雲の声から始まるし、林檎さんの声に重ねて伊澤さんのコーラスも聴こえる。そしてこの男性陣2人の声と林檎さんの声の重なり方も超クール。そう、これなのだ。5人が作るサウンドがくそかっこいいのはもちろんあるし、音の作りもめちゃめちゃ事変だなと思うけど、私が最もわかりやすく「東京事変」を感じたのはまさにこの声なんだと思う。だってこの感じ、他のバンドには絶対ないし、絶対にできないもの。しかもこの曲が事変再生の1曲目だったことで、「事変が帰ってきた!」「そうそう、これこれ!」と強く思わせてくれたんだと思う。

そんな「選ばれざる国民」、そして発売前にMVが解禁された「永遠の不在証明」を経てやっと新曲5曲をEPのかたちで聴けたわけだけど、収録の5曲を聴いてみるともう完全に東京事変みが増してる。聴けば聴くほどそう思う。この5曲があれば、「東京事変といえばこれだよ!」と言えるほど、東京事変として必要な要素がすべて入った5曲だ。都会で暮らす孤独、危うさ、闇、そしてその中でつつましく生きる人びとの熱と美しさ。東京事変の音楽にあるのはそんなハードな現実と生活の儚さだと思う。それらを余すことなく凝縮させ詰め込んだのがこの5曲だった。

そしてそれは同時に、この5曲をメンバーそれぞれが1曲ずつ作曲していることからも、この5人ひとりひとりが「東京事変」というバンドにおいて果たしている明らかな役割があって、バンドの成り立ちから見ても椎名林檎一強になってもいいようなところを、この5人でなければ「東京事変」になり得ないということを強く示している。8年経ってもなお東京事変としてのコアは変わらず、というか、8年の空白を経た今のほうが「東京事変」として本当に必要なものだけを抽出したような新曲が5曲も出来ているのは、本当にすごいと思う。

5曲を通じて、解散から8年後となる2020年の東京、そして日本という国、さらにひいては人類の行いまで、目の前にある現実を今の時代と同期させ、それを鋭く切実に描いた歌詞もメロディも、東京事変と再び同じ時代を生きていることを強く実感させる。どれくらいこの現代社会を思い描いて作られたのかはわからないが、政治や社会の闇、混乱の中で生きる我々庶民のミニマムな日常を歌っているような彼らの楽曲は、今の時代においてどこまでもリアルに感じられた。

このアルバムを以てして本当に「東京事変、再生」なのだと思ったし、いちファンとして、この時代にまた東京事変に会えて嬉しい。

本当に1曲1曲素晴らしいので書きたいと思うこともたくさんあったのですが、もうどこまでも続いてしまいそうなので、ひとまず作品全体に思うことまででやめときます、、とにかくこの新曲たち含め、早くライブで聴きたい、本当に。もともと予定されていたツアーのチケットも全部外れていたけど、またチャンスがあることを切に願います。

東京事変は私の人生の中で歴史のあるバンドなので、結構テンション高めに書いてしまった。。くどくてすみませぬ……。